030:嘘吐き




しまったと思ったらもう遅かった。
うっすら涙を浮かべた眼が睨んで、すぐに踵を返す。
咄嗟に腕を掴むと彼女は、嫌だと叫んだ。
明らかな拒絶に痛みを覚える、初めてのことだ。
肩を掴んで向き直らせても眼をあわそうとしない。と呼び掛けるときらいと吐き捨てる。

俯くのは堪えた涙が零れたからか、顔を上げないままでまたくりかえした。きらい。

悪かったからそのまま出てかんといてと必死に言うと、首を振る。
しゃくりあげて肩が揺れた。
まるで震えるように泣く姿がつらくて思わず抱き締める。
今度は特に抵抗もないことに安堵した。泣かせたのは自分なのに。


腕の中で彼女は一度だけ言葉を零した。嘘つき、と。