「わかんない、でもこまるの」
「…なんで?」

 見ていてもちょっと可哀想になるくらい、可愛い恋人は顔を真っ赤にして両手を必死に突っ張らせていた。正直、本気をだせば彼女の力など何の障害にもならないのだが、彼女の意に沿わないことを無理強いするつもりはない。ただ全身全霊で照れているのがあまりにも可愛いから、ちょっと見ていたいだけだ。

「だって、なんか最近おしたりへんなんだもん」
「そうか?」
「そうだよ!」

 瞳を覗き込むと、パッとそらされてしまう。少しだけ寂しくなったが、俺が嫌でそうしているわけではないのは、彼女の頬が真っ赤なのを見れば手にとるようにわかる。

「なんか、だって、かわいいとか、す…好きとか、いっぱい言うじゃん」
「せやかて、本気でそう思ってんねんもん」
「でも前はそんなの言わなかったのに!」
「前はな、友達やったから。でも今はカレカノやろ?問題あらへんやん」
「も、もんだいとかじゃなくて」

 かわいそうに、可愛いはすっかり混乱している。俺が両手をギュッと握り締めているからだろうが、残念ながら離すつもりはない。

「今みたいな俺は、嫌いか?」

 そう尋ねると、はうっと言葉に詰まる。そして小さな小さな声で「そうじゃないけど」と呟いた。ますます顔が赤くなる。ほんまにちゃんは、嘘がつけない素直なええ子やなあ。

「でも、こまるんだもん…」

 言葉どおり思いっきり困っていますという表情で、は付け足した。その顔もものすごく可愛いのだが、同時にかわいそうでたまらなくなってくる。俺を好きだと気付いたのもまだ数ヶ月前のに、いきなり無理をさせるべきではない。俺は手を離すと、混乱中であろう小さな頭をよしよしと撫でた。ごめんな、あんまり急ぎすぎたな、と宥めるように言うと、明らかにほっとしたような表情になる。声音が普段の俺に戻ったと感じたのだろう。それはそれで複雑なのだが。
 ほんならせめて、手ぇ繋いで帰ってもええ?と尋ねると、これにはうんと頷いて笑ってくれた。安心しきったその笑顔はとても可愛い。一番好きな表情であることに違いはない。

 しかしなにしろ、ほんの少し前、付き合う前までは、こうして照れることさえ稀だった。つまり、男として意識してはもらっていなかったのだ。それを考えると、俺を意識して照れる様子には感動すら覚えるのである。付き合い始めてまだ1ヶ月も経っていない、つまり蜜月。
 なあ、照れた顔を見られるのも恋人の特権やろ?