
「ちゃん、寝癖ついとるよ」
起きぬけでぼんやりしている彼女にそういうと、はぼんやりと首を傾げて数秒間何かを考えていた。恐らく俺の言葉の意味を理解しようとしているのだろう。彼女は非常に寝起きが悪い。もともと思考スピードはゆっくりめだが、とくに休日の午前中などはそれが殊更ゆっくりになる。今がまさにその状況なのだ。
「…じゃあ、なおして」
数秒かけて漸く合点がいったのか、は洗面台へとことこと歩いていって、何かを手に持ってまたとことこと戻ってきた。そのままこちらに差し出したそれは櫛である。
眠そうな顔で、かわいいパジャマを着て(尤も、何を着ていても可愛いのだが)、髪をハネさせている。この可愛い生き物はいったい何なのだろうと思いながら、俺は櫛を受け取った。寝癖を直すのも洗面台なのだが、わざわざ櫛だけとって戻ってきてしまうぼんやり具合が本当に、ものすごく愛らしい。ちゃんのおとぼけは、間違いなく彼女の数あるチャームポイントのうちのひとつだ。
ほんなら、洗面台行こうな、と背中に手を添えると、は素直に頷いて歩き始める。そうして小さな子供のような仕草で、小さな欠伸をひとつ。平和な日曜の朝だった。