「それ何で刻んでるの?」
「鶏挽き肉と混ぜんねん。いつも入ってるやろ?」
「ふうん。…これは?」
「それは生姜。これもすり下ろして挽き肉と混ぜるんやで」
「ふうん」
晩ご飯の用意(今日のメニューは鶏肉ハンバーグのみぞれだし梅肉添えや)をしている俺に、は付いて回ってあれこれと質問をしてくる。珍しいと思いながらも俺は嬉しくなって、丁寧に説明してあげていた。もしかしたら、惚れ直してくれるかもしれへんし。
はひとつひとつにふうん、と答える。の「ふうん」は感心がないのではなく、逆に興味深い時主に使われる。同時にどうでもいいときも使うが、調子でわかる。今のふうん、は、感心している時のそれだ。
「いろいろ入ってるんだね…」
「せやでー。あと卵も入れんねん」
「ふうん」
ちょっと得意になって言うと、はこくこくと何度も頷いた。そうしてそっと手を伸ばすと、俺の服の袖を掴む。
「どうした?」
「あたしも手伝う」
「へ?」
「しょうがすりおろすの、あたしやる」
「…ど、どないしたんちゃん」
いまだかつて聞いたことのない台詞に、俺は驚いて思わず尋ねた。はほんの少し不満そうな顔で言う。
「今日友達に、あんまり料理できないとおよめにいけないよって言われた」
「え…え、そんなん俺がお嫁に貰うしええんちゃうん」
「ってゆーか、家庭科の授業で笑われるんだもん」
は可愛らしくむーっと頬を膨らませた。ちょっぴりどきどきしながら言った言葉は見事にスルーされてしまう。そこまで期待して言ったわけではないが、ちょっとくらいどきっとして欲しかった…。
とにかく何かやりたいらしいはやるといってきかない。おろし金で怪我をしそうで怖いのであまり任せたくないのだが、包丁を持たせるよりはマシだろうか。…どないしよ。

「もーやだ、腕疲れた」
で、結局生姜をお願いしたわけだが、5分も持たなかった。
「なんや、は筋力ほんまにあれへんなあ〜。まあそんなとこも可愛…」
「やっぱり侑士やってー」
「……ええけど。家庭科で笑われるんちゃうの?」
「もー、いいや」
乳酸が溜まっているだろう(どうしてそんなやり方をするんだろう、というくらい余分な力をこめていたから当然だ)腕を振りながら、はため息をついた。やはり彼女は彼女だ。そこまでも世話がかかる、しかしそんなところが愛しくて愛しくてたまらない。
結局、彼女はソファの定位置に座り込んで、小さな子供のように食事を催促するのだ。いつもどおりに。
(ごはんまあだ?)
(はいはい、もうすぐやでー)
(やっぱ侑士が作ったほうが早いよねー)
(うんうん、そうやなあ)
(お嫁には侑士がもらってくれるしねぇ)
(うんうん、そうやなあ、………ん?)