01:追うもの追われるもの
はじめてのお泊まり、つまりはじめてのあれから3日後。にかいめのお泊まりをすることになった。3日後ににかいめってはやいんだろうか遅いんだろうか、てゆうかわたし的にはめちゃくちゃ早いんだけど。ぐるぐる考えながら彼より先にお風呂に入る。これは正直嬉しかった。
まえの時はそんな暇もらえなかったし、なによりわたしも彼も必死でそれどころじゃなかった。てゆうか今日も別にそういうことだけする為に来たわけじゃ…けどでもやっぱり思考はそう行く。もー、若いってイヤ!ともかく3日後って…は、早いよね?
誰に話かけるでもなく、てかいまこのお風呂場にはわたししかいないから当たり前なんだけど声にだして確認してみる。
ぜったいはやいよね!
だってついこの間まで清いお付き合いだったのに、一回した途端すぐまたってなんかすごいやらしくなったみたい。3日前まで処女だったんだよ!かと言ってそうなるのがイヤな訳でもない。
ああ、わたし汚れた。いや汚された。処女喪失したんだから当たり前なんだけどさ…!
更にぐるぐる考えだすと思考は止まらなくなって、けれど考えながらも身体と髪はしっかり洗った。
なんだかんだ言いつつ、良いにおいでいたいから。あ、侑士このシャンプー使ってるんだ。…真剣に悩んでるはずなのに、わたしの思考は必ず横道にそれるらしい。
もしかして自分で気付いてないだけでわたし、結構余裕ある…?
…そんなことも、なかった。
たっぷり40分かけてお風呂からあがると、彼が貸してくれたパジャマが置いてあった。綿のそれを手に取ってみる。うむ、実に…柄が微妙だ。へんな幾何学模様。まあパジャマだしいいかと思って着ると、めちゃくちゃぶかぶかだ。
彼のサイズだから当たり前と言えば当たり前、でもこんなに身体の大きさ違うんだなぁ。そういえば下から見上げた時も、肩幅とかすごく大きく感じたんだった。
そこまで思考が至って、途端に恥ずかしくなる。いま、ナチュラルにあの時のこと思い出した!ああほんとにわたし汚れた。汚された!ちくしょう、全部あいつのせいだ。
ぶかぶかのパジャマは、ボタンを全部とめても鎖骨のあたりがあらわになる。なんで開襟なの!まさかこれ狙ったんじゃないよね。そんなにエロエロだったのか。それともこの年の男子はみんなそうなのか。わからない…。ていうかぶかぶかの彼氏のパジャマを着る彼女の図ってどうなの?萌えって感じ?劣情刺激しちゃう?
あー、わかんねー!
鏡の前で考えてるうちに何だかどうでもよくなってきたので(彼の魂胆もまったくわかんないし)、もういいやっとなって濡れた髪もそのままにわたしは洗面所の扉を開けた。
居間へ行くと奴はソファーでテレビを見ている。雰囲気は…ふつう?盛ってないよね。
「長風呂やなぁ、お姫さまは」
「まーね、お姫さまだから」
「さいですか」
ぞんざいに言うと彼は笑った。ちょっとかわいくてどきどきする。
こんな図体でかいのをかわいいとか思っちゃう時点で重症だよ、わたし。
「ちゃん髪濡れたまんまやん」
「ドライヤーないんだもん」
「風邪ひくで」
「それさぁいつも思うんだけどさぁ、それくらいで風邪ひいたりしないと思うんだよね」
「いや、世の中何が起こるかわからんねんで。俺のかわいいちゃんはかよわい女の子やねんから気ィつけんと」
「…そ、そう(何でこういう恥ずかしいこと言いまくるんだろうコイツ)」
「ちょおこっちおいで、拭いたるから」
「あ、うん」
こっちおいでって言うのに内心反応しちゃったけれども、まだ侑士お風呂入ってないし。第一いまはきっとおかんモードだし。と思って素直に彼の隣りに座った。
中学の頃から何回も来てるし何回も座ってるソファーだけど、なんか緊張するな…。侑士はわたしの肩にかかってたタオルで髪を拭き始める。やさしい手つきがくすぐったい。
何となく気恥ずかしくて俯いてやってもらっていると、「この構図めっちゃ萌えるんやけどはどう思う?」とか聞いてきた。
そんなん彼女に聞くなよ!
「しらねーよ」
「思った通りパジャマぶかぶかやし」
「やっぱこれ想定して用意してたんだ…」
「当たり前やん!」
うなだれて言うとやたら強い調子で肯定してきやがった。やっぱりエロエロだったらしい。この野郎。
「変態」
「まあ、どうせ脱がすからいっしょなん、」
「さいあく!」
とうとう下心を隠すつもりもなくなったようだ。わたしは俯いてた顔をはね上げる。やる気まんまんかよ!わたしも若干そんな感じの気持ちがないでもないからこんな風に考えてるんだろうけど、いやでもさあ。
「ヤるの前提なの!?」
「えッ、違うん?何やそれ生殺しか!」
「いや違わなくないかもしんないけどでもよく考えてみてよ、3日だよ!3日後ににかいめってどうなの?はやくない?はやいでしょ?」
「はぁ?」
「世間一般的に見てやらしくない?どーなの?」
「何でいきなり世間一般を気にしてんねん、普段そんなん全く顧みいひんくせに」
「だってだから、あたし3日前まで処女だったんだよ!生娘だったんだよ!けど特にイヤと思うことなく普通にとまりに来ちゃったしなんかやらしい!いきなりやらしい!すごい困る!」
生娘とかやらしいとかそれこそ世間一般的に言ったらダメな言葉をぽろぽろ零しながら、それでも勢いに乗せて思って居たことを全部言葉にしてみた。嫌じゃないの、別にいいんだけどなんか…なんか。
彼は少しの間ぽかんとしてから、笑いだす。なんでわたしだけこんな必死なのよ。
「そんなん気にしてたん」
「大問題だよ」
「あんなあ、ちゃん」
「…なに」
すこしだけ真顔になって、侑士は肩に手を置いてわたしの眼を正面から覗き込んで来る。
「別にいきなりやらしくてええと思うで」
「なんで」
「セックスする目的って、子供作ることやんか。もちろんいまはできたらあかんから避妊するんやけど、したいなってやらしい気分になるっちゅーことは、その相手と子供作りたいって本能で思ったってことやろ?」
「…うん」
「ならなんで特定の人と子供作りたいって思うんか、わかるか?」
「……好きだから?」
「そういうこと」
「…どういうこと」
怪訝そうに眉を寄せるわたしに、彼は微笑ってまだ濡れている髪を梳いた。
この指先はなんでいつもこんなに優しいんだろう。
「せやから、俺はのこと大好きやからやらしい気分になるし、も俺のこと大好きやからやらしい気分になんねん」
「…そうなの?」
「そうや。初めてのまえはしたことないわけやから、女の子は恐怖心が勝っててなかなかそういう気分にならへんのやろうけど」
「ほんとかなぁ」
なんか嘘くさい。更に訝しげに見上げると何だか彼は満足げに笑っている。ほんと、あほみたいな笑顔だなぁ。外でこんな顔してるのみたことないよなぁそういえば。
わかった?ときいてきたのでうーん微妙と答える。だってあんた別に生物学者でもなんでもないじゃない。
だけどそう言われたらなんだかそんな気もする。それならいきなりやらしくてもいいかなって気もした。これって、言いくるめられたってやつなのかな?
でも、せやからええねん、と彼はにこにこして言うからもう何だかどうでもよくなってしまった。…パジャマのくだりは若干癪に触るけども。てゆうか萌えるんやけどどう思うって彼女にきくのはやっぱナシだよ。
それを言うと、自粛しますだって。ほんとかなぁー。
「さて、これでもう何も問題はないわけやな」
「あーまぁそうかもね」
「そんなら」
「あッ駄目お風呂入って絶対入ってきたないから」
「……は、はい…(きたないって…!)」
なんだかしょんぼりしながらお風呂場へ向かう彼の背中を見つめて、とりあえず言われた通りきちんと髪を拭いて待ってようと思った。
好きだからいいんだって。そういうものなんだ。なんか変なの。
これが愛ってやつかな。変なの。