14:召し上がれ
寒い寒いとうそぶきながら、俺の可愛い彼女はこたつに入って小さな背中を丸めていた。
上着を着ないから寒いのだろうと言っても、もこもこするから嫌なのだそうだ。そんなわがままな天使の為に暖房をガンガンに効かせているが、真冬はどうしてもどこかからすき間風が入る。は長袖の部屋着一枚。寒いに決まっている。
その背を暖めてやろうと、俺は下心も込みでの後ろに回った。どっこらしょ、と言いながら、の体を足の間に挟むように座り、足をこたつに突っ込む。
「おじいちゃんみたい」
どっこらしょという呟きが聞こえたのだろう、は可笑しそうにころころと笑った。腕を柔らかい腹部に回して体を密着させると彼女は、素直に背を預けてくる。
侑士体あったかーい、と言って無邪気に見上げてくる瞳があまりにも可愛くて、前髪をかきあげて額にキスをする。そのままヨシヨシと頭を撫でてやると、は上機嫌でにこにこと笑った。
か、かわいい………
そのにこにこ顔のまま、彼女はこたつの上のみかんに手を伸ばす。しかし俺にもたれかかっている上、背の低いは手も短いのでちゃぶ台の向こうの方にあるみかんにはとても届かない。
それでも彼女は体勢を変えようとしないので、俺はやれやれと身を乗り出す。ついでに自分も食べようと思い、ふたつ取ってひとつをに手渡した。
ありがと、と言ってはそれを両手で持つ。しかしそのまま皮を剥くでもなく、持ったままなにもしない。どうしたのだろうと、俺が自分の分のみかんの皮を丁寧に剥いていると、その手元に視線を感じた。無論、他でもないの視線である。
これは、あれや。物欲しそうな目ってヤツ…。
ちょっと奮発して買ってきた美味しいみかんを、ちゃんのどんぐりまなこがじぃっと見つめている。それから、無言で俺を振り仰いだ。くッ、めっちゃかわいい。願わくばこの顔、もっとエロいシチュエーションで見たかった…。
「………、これ、食うか?」
「くう」
観念したように言うと、は腕の中でうれしそうにこっくり頷いた。みかんを口元へ持っていくと、小さな唇は素直に開いて、鮮やかな果実を口に含む。
もぐもぐと咀嚼し嚥下すると、もうひとつ頂戴と言わんばかりに再び口を開く。やっぱりもっとエロいシチュエーションで見たかった、と思いながら、雛に餌をやる親鳥宜しく俺はみかんを与えつづけた。
しかし不思議なもので、色気のかけらもない状況だと思っていたのがじわじわとインモラルな感覚に襲われ始めた。のみずみずしい、それこそ果物のような口唇が開き、熟した果実を食べる。体勢のせいなのか距離のせいなのか、ただそれだけの単純な動作が段々官能的に見えてきたのだ。…密着しとるしな。
「ゆっぱり人にむいてもらうとおいしー」
ごくり、と思わず生唾を飲み込む俺には全く気付かず(いつものことだ)、はもぐもぐしながら言った。そらそうやろうな、と思いながら最後の一房をつまみ上げる。
「このみかんすごい甘いね」
「そうか、よかったなぁ」
「うん」
甘いみかんのおかげか、は終始機嫌が良い。俺はふと思い付いて、その最後のみかんを与えた指をそのままそこに残した。そうしての唇をそっとなぞる。つややかな唇は、完熟の果実よりも柔らかい。
俺の行動の意味がわからないのか、がこちらを見上げた。みかんを飲み込んでからなあに、と尋ねて来る。
「美味しそうやなーと思って」
「…侑士も食べたら?」
「………」
不思議そうに、本当に不思議そうに小首を傾げながらは言った。目の前にみかんたくさんあるじゃん、とでも言いたげに。美味しそうなんはみかんやなくて、ちゃんなんやけど。あと俺のみかん食べたのちゃんなんやけど。そう思いながら、俺はそうやな、と頷いて自分の分のみかんを剥きはじめた。
人生って、うまくいかない。
ちなみに、せめてが食べさせてくれへんかなーと思ってドキドキしながら提案してみたら、何で?と聞き返された。
もう別に分かってたし、ええんやけどな…。