17:舌舐めずり










 退屈そうな様子で、カーペットにころりと転がっているを見ていると、自然とため息がこぼれ出てくる。お姫さまは今日も無防備だ。スカートのまま寝そべっているので、白いふとももがあらわになっている。
 横を向き、一応テレビ画面を見てはいるが、昼下がりの時間帯で興味のないニュースばかりを取り上げるワイドショーに飽き飽きしているのが見て取れた。小さな欠伸までしている。仔猫のような、眠そうな仕草に劣情を煽られた俺は、の頭の横に手を突いて上から顔を覗き込む。
 影が差して、俺に気付いた彼女はこちらを見上げた。変わらず眠そうな瞳には不思議そうな色が宿っている。覆いかぶさるような格好に、しかし何にも気付かず「なあに」と、彼女は訊いた。

、今何考えてたん?」
「なんにも」
「そうなんや。眠いん?」
「ちょっとね」

 俺と顔を合わせやすいよう、は横を向いていた身体を仰向けに直す。満腹で気分がいいのか(今日の昼飯は彼女の好きなオムライスを作ってやったのだ。尤も、ほぼ毎日彼女の好物しか作らないのだが)、親指をその柔らかい頬に這わせるとくすぐったそうに笑った。

「テレビ、面白いのやってないもんな」
「うん」

 前髪を指で梳いてやりながら「どっか行くか?」と尋ねる。は緩慢な仕草でかぶりをふった。今日はうちにいるの、なぜか少しだけ小さな声で彼女は答えた。

「ほんなら、俺と遊んでくれへん」

 そう応えるだろうと分かってした質問の返事に満足しながら、更に尋ねかける。やはり何も気付かない彼女は遊ぶって?と首を傾げた。昼下がりの最も眠く、そしてどこか幸福感を孕んだ休日の午後であることもあいまって、ぼんやりしているのをいいことに、常より少しだけ無遠慮に髪に指を差し入れる。

「何するの?」
「何しよか」

 虎視眈々と狙われていることに微塵も気付かない彼女は、しりとり?と、的外れなことを言う。どれだけ言葉に含みを持たせても、ストレートに言わない限り彼女は気付かない。ムードも何もあったものではないのである。ただだからこそ、誘導に乗せやすいというのも事実だ。
 彼女の背中とカーペットの間に腕を差し入れて、華奢な身体を抱き起こす。は特に抵抗することもなく俺の腕に掴まった。捕まった、の間違いかもしれないが。…別にしりとりしてもええんやけどな。
 額に口付けても嫌がらなかったので、今度はその可愛らしい唇を塞いでやろうとしているとあ、とは唐突に声を上げた。間違っても喘ぎ声ではない。このタイミングで普通に喋りはじめるというのも、のとても個性的なところである。

「ホットケーキ」
「…しりとりか?」
「ちがうよ、今日のおやつ」

 どうやら今度は俺の方が的外れだったらしく、はおかしそうに笑って時計を示した。なるほど、あと30分少々でおやつの時間である。触れそうなほど顔が近かったのに、の動きで通常の距離に離れてしまう。
 ホットケーキ作ってね、と、まださほど空腹ではないだろう筈の――何しろ、昼食は少し遅めで13時頃だったのだ――彼女は、それがさも素晴らしい提案であるかのように嬉しそうにした。
 どうにかしてベッドに雪崩れ込ませようとしているこちらとしては、正直おやつなどどうでもいい問題だった。しかし習慣とは恐ろしいもので、瞬間的に材料がきちんと揃っているか考えてしまう。大丈夫だ、卵も牛乳も、小麦粉もじゅうぶんな量がある。バターとメイプルシロップも、である。
 ホットケーキな、と頷くと、もうんと頷き返す。なぜこの状況でホットケーキを思い浮かべたのか、あんまりリラックスしすぎなのではないかと言いたくなったが、我慢して再びその身体を抱き寄せる。警戒されて困るのは自分なのだ。俺の腕の中に大人しくおさまって、テレビのリモコンを繰る頭の天辺にキスをして、タイミングをはかった。
 御し難い彼女の気まぐれな精神は今日も健やかだ。最悪、晩ご飯後のおやつで我慢してもらおうと思いながら、俺はいかに彼女の機嫌を損ねずにそういう雰囲気へ持っていくかについて頭を悩ませ始めた。
 ただ、このままどうにもならずに30分後、ホットケーキをフライパンで華麗に裏返す自分の姿がすうっすら見えるような、そんな気もするのだった。