20:低い声
じっと真剣に本を読んでいる時とかに突然呼ばれるとそれはもう、結構びっくりする。彼の声は低くて、薄く肌を辿る心地がしたから。そのまま下腹の底に、霧みたいに溜まってゆくように。
「あんたの声って、へんなかんじ」
「…どんなふうに」
「なんか、鎖骨とか背中とか腰のあたりとかくすぐったくなる」
そう云うと彼は喉の奥でわらって、わたしの手首と項を掴まえた。
「それ、誘ってるん?」
「なんでそうなんの」
「なんでって」
彼は触れそうなくらい近くに囁きを落とす。
―――つまり俺の声に感じてるんやろ、それは。
吐いた息に肩が震えて、彼はまた笑った。
あんたの所為じゃないと言いたかったけれど、それ以外に要因が見つかりそうもなくて閉口する。主導権は向こうにあって、手首の熱を振り払うことも出来ない。
結局のところ、吹き溜まった霧を取り払ってくれるのは彼だけだった。