07:音
あられもない声が自然に零れるっていうのは、正直なところいつまで経っても慣れない。毎回毎回恥ずかしくて死にそうだ。あんな声わたしじゃない!
そういう話をすると、彼は「俺はめっちゃ好きやけど、てかあの声だけで俺1週間いけるわ」とかって。あんたの意見はきいてないのよ変態!(てゆうかいっしゅうかんいけるって何の話なの)
だからときどき、自分で口を塞いでみたりする。それはそれで苦しいんだけど我慢して。
だけどその度に奴は、眼を合わせて微笑うんだ。それはそれは凶悪な笑顔で、目を合わせるだけで息が止まる。意地悪なような、慈愛に満ちたような、熱情に焼かれたみたいな。意識が混濁する少し前、平生の心が残っている瞬間に真正面から向き合うことになる。
いとしいとか、キスがしたいとかそんなことしか思い付かなくなって(きっと、わたしも彼に欲情するんだ)結局は口を塞ぐよりも彼に縋る為に両手を使わなくちゃいけなくなってしまう。口を塞いでいたら、キスも出来ないし。
恥ずかしいことにかわりはない。かわるのは、すぐにそんなこと気にする余裕がなくなるということ。
伸ばす腕は、いつだってトリガーだ。
本当は、と銘打って彼が打ち明けてくれた。
本当はわたしの声がこぼれて空気に伝わって、部屋の中に伝播するのすら嫌なんだって。本当はキスしたまま全部自分の中だけで響けばいいって思ってるんだって。だけど聞きたいから仕方なく空気にもわけてあげてる、って意味の分からない彼の持論。
独り占めしたいのは結構だけれど、こっちの事情も顧みて欲しい。
キスもしたい。わたしだって、彼の中だけに声を落とせたらどれだけいいか。だけどそれじゃあ、顔が見えないんだもの。
同意を求めると、「昼間っからこう云う話題だと何や変な気分になる」とかまた素頓狂なことを。それじゃ答えになってないってば。
ちなみに、あのときの声と普通の声、どっちが好き?って試しに聞いてみたら、すごい考え込んじゃってしばらく帰って来なかった。別に、どっちもわたしだからどっちだって良いんだけど。