ふと、彼女がこてんと肩に頭を凭れさせてきた。ソファに並んで座って、俺は本を、彼女は雑誌を読みながらそれぞれに寛いでいたのだが、彼女の様子を伺うと、目蓋がほとんど落ちてしまっている。夕飯も済ませて、満腹の状態だった。室内は暖房がきいていてとても温かい。おかげで眠くなってしまったのだろう。

ちゃん?」

 落とした声で呼び掛けると、彼女は小さく返事をした。が、ほとんどむにゃむにゃ言っている。

「ねむたいん?」

 重ねて尋ねると、今度はもう少しわかりやすく頷いた。そうして、わずかに身を起こして目蓋をごしごしと擦る。やんわりその拳をとってやめさせると、ひどく眠そうに数度、ぱちぱちと瞬きをした。
 小さな子供のような愛らしい仕種に、思わず笑みが零れる。「眠たいんなら、ベッド行こうな」髪を撫でてやりながら言うと、小さな頭がこくりと頷いた。そのまま抱っこをせがむようにしがみついてきたので、軽い体を持ち上げる。眠い所為か、子供のように体温が高い。彼女は安心しきって体を預けてきた。
 すぐ隣の寝室のセミダブルのベッドにお姫様を下ろすと、冷たいシーツに彼女は少しだけ悲しそうな顔をする。小さく、つめたい、と言うので、可哀相になって自分もいっしょに布団に潜り込んだ。ぎゅっと抱きしめてやると、悲しそうな表情がゆるむ。

「ゆうし、あったかい」

 とろけそうな声音で、あまえんぼうの彼女は俺にほお擦りをした。その頭を抱き込むようにしながら撫でて、もう一方の腕で軽くぽんぽん、と布団の上から叩いてやると、すぐにお姫様は眠りの世界へと誘われていく。
 半分以上眠りながら、それでも明日のあさごはんオムレツにして、とリクエストを口にした。俺が苦笑しながら頷くと、それを聞いて安心したとばかりに彼女はすやすやと健やかな寝息を立てはじめる。寝かしつける必要もなく、彼女は非常に寝つきがいい。
 しばらく待ってから、もう添い寝はいらないだろうかと身を起こしかけて、彼女がしっかりと自分の服を握りしめていることに気が付いた。眠りの深い彼女のことだから、起きないだろうと考えてそっと離させようとする。だが彼女はいやいやと首を振って、さらに身を寄せてきた。起きているのかとも思ったが、完全に寝入っている。
 まだ夕飯に使った食器を片付けていなかった。居間で一休みしてからするつもりだったのである。風呂にも入っていない。
 けれど、全て明日に回してしまうことにして俺は起こしかけた体をまたベッドに沈めた。あらためて彼女を抱え直して、自分も眠る体勢に入る。緩む頬は放置して、思いっきり緩めておくことにした。どうせ誰も見ていないのだ。
 あどけない寝顔を独占している幸福に、俺は誰にともなく感謝した。額に落ちかかる前髪をそっとかきあげて、かわいらしい産毛のある前髪の生え際に唇を落とす。
 やわらかい頬を手のひらで撫でると、眠りながらも彼女は幸せそうに微笑んだ。いい夢を見ているのだろうか。願わくば、そこに自分がいますように。
 そんなことを思いながら、ひどく穏やかな気分で腕の中の恋人に囁きかけた。

「おやすみ」