くるしい、と訴えた彼女の濡れた睫毛が孕んだ艶と憂いに、思わず背が震える心地がした。苦しそうな呼吸、上気した頬とあられもなくはだけられた衣服全てが、自分を煽るようだ。
君の海は不可侵の光
普段は随分と幼く見える彼女も、この時ばかりは変わる。白い膚と細い身体は熱を含み、ひどく危うげな色香をうみだす。しどけなくシーツに背を預けて腕を投げ出した彼女はひどく扇情的だ。
彼女をまるで子供の様だ、と称する友人も、別人のようなこの姿を見れば考えを改めるに違いないだろう。
――むろん、このような姿を見せるつもりなど毛頭ないのだが。
「…侑士?」
は動きを止めた俺を不思議そうに見上げた。伏していた瞼がもちあがる。
縁が潤んだ瞳は深い色をしていた。与えられた熱に涙を湛えて、睫毛が震える。
どこかぼんやりしたその姿はひどく無防備で、どうしようもなく劣情を刺激した。
電気が走る様に独占欲が身体を満たして俺は殆ど衝動的に、そのうすく開いた唇を塞いだ。否、貪ったという方が正しいかもしれない。
呼吸すら俺の手助けなしでは出来なくなってしまえばいいと本気で思う時がある。きっと俺は、狂っているのだろう。
触れる度に、はちいさく息を吐く。
意思とは関係なくこぼれる吐息をおさえようと、彼女はその珊瑚色の唇を噛んだ。あかん、と囁いても小さくかぶりを振るだけだ。俺はその声こそが聞きたいのに。
なにより、その愛らしい唇に傷がつくのは我慢ならなかった。
指で辿ると力がすこし緩む。その隙を逃さず指をそのまま口内へ差し入れた。戸惑いと困惑、そして羞恥に彼女の瞳がゆらぐ。
すこしだけ震える指が俺の肩を押したが、抵抗というほどのものでもない。
俺は微笑った。
――いまこの瞬間俺を満たしたのは他でもない。
彼女は俺にとって不可侵の光であり、その実自分だけのものにして閉じ込めた小鳥だ。自分がいなければ生きられない様にと、ひたすらに甘やかして来た。
どうしようもない独占欲。征服欲。むろん、それは彼女のすべてに溺れているからこそ生まれるもの。
震える唇は閉じることを許されず、彼女は苦しそうに喘いだ。
自分のしていることがどんなことなのかは自分が一番よくわかっている。彼女の可能性すべてを握りつぶしているのかもしれない。俺のいない未来のほうが彼女には幸せなのかも分からない。けれど、手放すつもりはなかった。
生命の呼吸に息衝く柔らかな膚に欲情する。いっそ、白く脆い喉元に噛み付いて壊してしまえたらどれだけいいだろうか。
永久に閉じ込めてすべての他人から、太陽や月や星からさえも遠ざけてしまえたらと心の奥底でいつも思っている。彼女が拘泥するのは自分だけであればいい。
は力の入らない手のひらを伸ばして俺に縋り付いた。先ほどまで俺の人差し指を咥えていた紅い唇が名前を呼ぶ。俺の名前を呼ぶ。
塗りつぶされた俺を受け入れているのは、他でもない自身なのだ。彼女が俺を求める限り、拒まない限りはここから出しはしない。
彼女は俺の腕の中だけで輝く海だ。不可侵の光を湛えて、いつも俺を見つめている。
暗…ッ
忍足は実はこういうぐちゃぐちゃした内面の人だといいと思います。本気で。