がしもの

「あれェ〜?」
?何探してるん」
「んー?めがね」
「めがねって…眼鏡か?俺の?」
「うん、そう」
「それなら今俺がかけてるやん」
「いや、それじゃなくて」
「それじゃなくてって…これしか持ってへんよ、俺」
「えー?あるでしょ、フレームしかないやつ」
「え…?ないよ」
「あるでしょー?伊達なんだからさあ」
「いや伊達やないって!いつまでひっぱるんそれ!!!」
 (ていうか、ちゃんによる捏造やから!!!)



んぱい

「はあ…」
「なんだよ、辛気くせえなあ。ため息つくなよ」
「なんや冷たい奴やなお前は。友人が憂鬱そうにしてんのに気遣いの言葉のひとつかけられへんのか」
「あーはいはい。どうしたんですかー」
「(このオカッパ…)俺はな、心配で心配でたまらんねん」
「なにが」
「だから、が」
「お前の彼女がなんだって」
「アルバイトしたいとか言うねん」
「は?」
「せやけどちゃんめっちゃ可愛いやろ。もう天使みたいやん。なのにバイトなんかしたらあっというまにのストーカー軍団出来るに決まってるやん」
「いや、しらねーよ」
「絶対できるって!!ていうかちゃんどじっこやからまず働けるかどうかも心配やねん」
「ああ、あいつ頭も悪ィしな」
「な…!お前、何言うてんねん!!!俺の可愛い彼女を侮辱する気か!!」
「いや、事実じゃん。お前もあいつのこと思いっきり子供扱いし…」
「ていうかお前あいつとかっての何のつもりやねん!!」
「何のつもりでもねーよ!!お前いい加減にしろよ、うざいんだっつーの!」
 (俺を巻き込むなって言ってんだよ、いい迷惑なんだよこっちは!)





 ど、うしよう。
 わたしは廊下の突き当たりの隅っこで蹲って、熱くなった顔を両手で覆った。
 いままでぜんぜん平気だったのに。名前呼ばれるのも一緒に帰るのも目を見て話すのも。自分から触ったりしてたし、肩とか。頭撫でられるのも、ふつうだったのに。きゅうにどうしたらいいかわかんなくなるなんて。
「おーい、ちゃん、どないしてん。俺なんかしたか?」
 後ろから足音がする。当たり前だ、話の途中に突然教室を飛び出したんだから。でもどうにも耐えられなくっちゃったんだもん。
 忍足はなんにもしてない。どうかしちゃったのはわたしのほうだ。何て答えていいかわからないまま、足音が近づいてくる。ああ、顔が真っ赤なのがバレちゃう。どうして真っ赤なのか自分でもわかんないのに。
?」
 そういえば、わたしを名前で呼び捨てにする男の子なんて、人生で初めてだ。すぐ後ろで彼の声がして、唐突にそう思った。そうだ、忍足は、紛れもなく男の子なんだ。どうして今まで気付かなかったんだろう。
 この動揺がなんなのか、名前をつけられそうな気もするけど、なんだか少しこわい。でも忍足がこわいんじゃない。だって、飛び出したわたしを忍足は追いかけてきてくれた。それがとても嬉しい。そう思っているのは、紛れもない真実なんだから。
 (でもほんとうは、この気持ちの正体をきっとわたしは知っているのだろう。ただ認めたくないだけで)



なか

 ほんとは、こんなふうにコートのなかにいる彼の後ろ姿が、実はすごくすごく好きだ。背筋がまっすぐピンと伸びてて、一生懸命で、いつもあんなにアホなのに違うひとみたいに見えたりする。実はちょっとかっこいいとか思ったりして…秘密だけど。
 と彼の友達にこっそり打ち明けたら鬱陶しそうな顔をされた。わたしだってあんたに言いたくて言ったんじゃないよ、ちょうどいま他に誰もいなかっただけで。
「ていうかそれ本人に言ってやれよ」
「何で?やだよ」
 (だって言うと調子に乗ってうざいんだもん)(お前、結構残酷だよな…)



いね

 (これ、なんなんやろう…)
 と、投げやりな気分で思ってしまうのも無理はないと思う。なんと言っても、いとしいいとしい彼女がすぐ隣でお眠りあそばしているのだ。すごく幸せそうに。それも艶っぽい状況ではまったくない。ただ単にちゃんはお昼寝をしているだけだ。…一線を越えていない彼氏のお部屋で。
 しかしいくら日曜の昼間で、明るくて健康的な陽に溢れる居間だからってそれはないと思う。警戒するとか意識するとかないんだろうか。信頼されすぎやろ俺。と言いつつ、そんなことは今更のことなのだが。
 もう今日こそどうにかしてやろうかと柔らかい頬に触ると、はむにゃむにゃと寝言を呟いた。ああハッキリ言って、毎度のことながら、この寝顔は天使にしか見えない。もともとの幼い顔立ちがさらに幼くなるのもあいまって、もちろんムラムラくるのも事実だがそれより更に大きな庇護欲がかきたてられる。信頼されていることへの満足感もあった。そうして、これだから意識してもらえないのだと分かっていつつも、今日もまたまあいいかと思ってしまうのだ。
 やれやれ、と自分で自分に呆れながら、俺はタオルケットを取りに立ち上がった。それとも今日は自分も一緒に眠ってしまおうか。彼女が目覚めたとき横で俺が寝ていたら、ちょっとはドキッとか…
「してくれへんかなあ、やっぱ」
 はあ、と俺は今日もため息を吐く。まあもう先に惚れた方が負けやし、別にええねんけどな、ゆっくりで。
 (とりあえず目覚ましたらおなかすいたって言うやろうから、昼ごはん作ったらんとなあ)