まちぼうけ
「もう、やだ」
「ちゃん?そないな悲しそうな顔してどないしたん、可哀想に」
「ゲーム屋さんからでんわあった」
「電話?」
「まただって」
「またって…何がや」
「また延期だって!そうなると思ってた!思ってたよ!!」
「な…なんやと!?やっぱりか!」
「しかも夏だって!信じられない!7月だよ、遠いよ!」
「7月…!?4ヶ月も先やんけ!」
「ハードを変えるからこんなことになるんだよ、だから据置きだしたほうがいいって言ったのに!」
(それは春の日の出来事)
みどり
「ちゃん起き!もう6時半なるで!」
「やだぁ眠い〜…」
「早よ行かな!たぶんもう行列できてるって」
「よやくしてあるからいーじゃあん…徒歩15分だもんもうちょっと」
「寝巻きのままで行く気か!あかんで、のかわいいパジャマ姿は俺だけのもんや!!」
「もーうざいー」
「いやそうやなくて、予約受け取りも並んどるって絶対!みんなたっぷり4ヶ月待たされてんねんから」
「うー…そっか…」
「いっしょにマルチプレイするんやろ?」
「うん…おきる」
「Tシャツとジーンズでエエから、着替えよな?」
「うん…」
「顔洗ってな」
「…うん」
「帰りに朝ごはんのパン買うて帰ろな」
「うん」
「そんでお待ちかねの冒険の旅や!本体の充電は昨日バッチリしてあるし!」
「うん!」
(そして夏の日の出来事)
むかしばなし
「…なんやって?」
「だーから。お前の彼女がそう言ってたぜ」
「……ほんまに?」
「何で俺がこんな嘘つかなきゃいけねえんだよ。マジだって」
「…………、」
眼鏡の友人は、その恋人から迷惑にも打ち明けられた「ほんとはかれのこんなところがすき」という薄ら寒いのろけを聞いて言葉を失っていた。呆れているのではない。感動しているのだ。今にも神に感謝しだしかねない感激っぷりである。普段そんなに愛されているという実感がないのかと、だんだん不憫に思えてくる。
「お前マジでかわいそうなんだな…」
「いや、ちゃんが俺のことめっちゃ好きなんは知ってるんやけど」
「…は?」
「ちゃん顔と行動に出るからな。せやけど照れ屋やから他人にのろけたりはあんましてへんみたいやってん」
「はあ?」
「せやけど…とうとう…ああ〜俺めっちゃしあわせや〜〜」
ダメだこいつらどうしようもない。俺がそう思ったのは言うまでもないことだった。
(マジで、つーか、もう関わりたくねェ)
めまい
暑い。暑くてたまらない。炎天下、タオルを被って凍ったペットボトルのお茶を首筋にあてていても、暑くて暑くてたまらない。血が沸騰してるのかもしれないと思った。それとも、脳みそのほうかな。
わたしも汗だくだけれど、彼はもっと汗だくだった。汗だくとかいうレベルじゃないくらいに。頭から水を被ったみたいだ。だから、髪しばってあげようかって、言ったのに。
でもそんなこともうどうでもいい。ゆっくりこっちに歩いてくる彼に向かって走る。残った距離をわたしが埋めて、体当たりするみたいにしがみついた。こんなとこに長時間立っていたから暑いのか、心が熱いから暑いんだか最早よくわかんなかったけれど、とにかく、くらくらして。
「たぶん今の忍足がいちばんかっこいい」
「ほんまに?」
「せかいでいちばん」
「なんや、大サービスやなぁ」
「たぶん忍足の人生でも今がいちばん…」
「…それは、どういう意味や?」
「おめでとう」
「ちゃん?」
「よかった」
「」
「よかった…」
「……有難う」
(噛み締めるような声。太陽よりずっとずっと、いまのかれは、とてもまぶしい)
もんだい
「ねー、じゃあ」
「うん?」
「侑士はあたしのどこがすきなの」
可愛い可愛い恋人は、そのまるあるい瞳を純粋な好奇心で輝かせて俺の顔を覗き込んだ。
「…それ」
「ん?」
「それ、もしかして誘っとる?」
「何で?何言ってんの?」
「…うん、いや、ええんやけど」
やっぱり、ここでするべき質問ではないと思うのだ。だって隣にはあのオカッパがいて、ニヤニヤ笑っているのだから。本人にド直球で聞いちゃう質問でもないと、思うのである。普段照れ屋さんなのに、彼女はときどき唐突に臆面がない。乙女心、というか心はとても難しい。基本的にはとてもとても、単純なのに。っていうか、なんか逆に俺が照れるんやけど!
ねえなんでと、可愛らしい声が尚も問いかける。はっきりいって、そんなところも、めっちゃくちゃ好きや。好きやけど。
(あとでふたりっきりで嫌というほど教えたるから、お願いやからちょっと止まって!)