082:暗闇
心細くなって見上げると、直ぐそばに居た。居てくれた。
あたしが見上げたのに気付いて、彼がその手を伸ばす。ひんやりと冷たい指が張り付いた前髪を除けて、額の上をすべった。熱はだいぶ下がって来たみたいやなと彼は一人ごちて、と優しく名前を呼ぶ。
目だけで答えると喉が渇いて居ないかと訊かれた。そう言われて喉がカラカラな事に気付く。渇いた、とかすれた声で答えると、彼はあたしの体を起こした。
お気に入りのマグカップに注がれたスポーツドリンクを飲み干して、ありがとうと告げると、額に口づけが落ちる。
具合が悪いといつもの3割増し素直やなと微笑うので、ごめんねと言うとまたキスをされた。風邪がうつるってば。こんなに大事に看病されるのなんか小学生以来だ。
甘やかされ過ぎてふやけてしまうのではないかと思ったけれど、そっと髪を撫ぜる彼はひどくやさしく微笑っていたので、これでいいかと思った。