(…それにしても、めっちゃかわいかったなぁ…)
物思いに耽るうちに、すっかり目も冴えてしまった。起き出して朝食の準備でもしたいところだが、彼女を抱いている状態のため、起こしてしまう可能性もあって動けない。
となれば、腕の中の柔らかい感触に、思い返すのは昨夜のことばかりであった。
自分はいま、確実にだらしない顔をしていることであろう。しかしやっと思いを遂げた次の朝くらいは、少しくらいヤニが下がっていても罰は当たらないと思う。本当に本当に可愛かったのだ。夢のようだった。いや、はもちろんいつでも可愛いが、昨夜の可愛さは格別だった。というか、新ジャンル確立だ。俺の中で。
これまでも出逢った頃と比べて大人っぽい、つまり色っぽい表情をするようになったなと感じることはあった。口づけた後やふとした瞬間、染まった目尻や唇に艶があることもあった。しかし昨夜の彼女はそれを遥かに凌駕する衝撃を俺に齎したのだ。声や表情の甘さと言ったら、砂糖菓子やチョコレート程度では喩えることすら出来ない。以上に甘いものなんて、きっとこの世に存在しないに違いない。
(つまり分かった、これがギャップ萌えなんやな…本当の意味の…)
俺は頭の中でひとりごちてひとりで頷いた。恥らう様子もこれまた扇情的だったのだ。普段は無邪気で無垢な少女が、夜の闇の中で俺に甘えて縋りついてきた。これ以上エロいものがあろうか、いやあるわけがない。そうつまりめっちゃエロかった。あのちゃんが、かわいいが、わがままな俺の天使がものすごく仔猫ちゃんだったのだ。
―――いや、ダメだ。これ以上思い返してはちょっといろいろ危ない。俺の天使はいま安らかに眠っている、その安寧を邪魔するわけにはいかない。しかし、思い返さずにはいられない。だってその彼女は腕の中にいるのである、必然的に思考の方向はそっちへ転がっていく。いやいや、ちょっと落ち着け、俺!
俺が悶々とした思考の迷路に陥っていると、原因であるその少女がうーん、と寝返りをうった。その様子はほほえましいことこの上ないが、問題は彼女が着ているのが俺のぶかぶかパジャマ(しかも上着だけ)だということである。他でもない俺のよからぬ考えによってそれは開襟だ。やわらかな白い胸元があらわになっている。いやこれを期待してこのパジャマを用意していたのだが、予想外の破壊力だった(俺のパジャマであるというところが特に)。更に思考がそっちのほうへ転がっていくのを感じる。思いっきり自業自得だが、若いって、大変すぎる。
疲れきっているに違いない彼女は、きっとしばらく起きないだろう。起きたら起きたできっといつもの健全な様子で「おなかすいたぁー」と朝食を強請るに違いない。甘い展開になることは大体、否、確実にないだろう。となると落ち着かなければいけない。やはりもう起きて家事を始めるのが一番の得策だろう。
されど残酷なことに、彼女の右手は俺の寝巻きをしっかりと掴んでいた。嬉しいことだが、勘弁してほしい。彼女が起きるまでこのままでいろと、そういうことなんですか神様。まだ時刻は7時半。彼女が起きるだろう時間まであと2時間はある。
彼女が彼女である限り、俺の忍耐の日々は終わらない。このとき俺はやっと、そう理解したのだった。
眠ってる 場合じゃない!
(というか眠れるわけがない)