彼女はきっと陽光に愛されているのだろうと思った。少女は窓枠に肘をついて外を眺めている。柔らかくあどけない頬を小さな手のひらが覆っている。睫毛が陽に透けて光を弾く。何もかも分かり易く顔に出る性質なのに、こういうときだけは何を考えているのか全く分からない。いつもあれだけ賑やかな珊瑚色の唇も黙したままだ。少女がアンニュイに頬杖をついて、午後の光に包まれる様は一枚の絵のようでもあった。
「今何を考えているのか」、俺は非常にしばしば彼女にそう問いかける。返って来るのは大抵「なんにも」という宙に浮いた答えなのだが、俺にはわかっていた。彼女の思考は非常に突飛な上、あちこちに広がりやすい。自分ではなにも考えずにいるつもりでも、その実非常に様々な事項に於いて考えをめぐらせているに違いない。それがあまりにも拡がりすぎて、とりとめがなさすぎるので、本人は「何も考えていない」と感じるのだ。
今まさに、何を考えているのか、と尋ねたら、彼女はまず間違いなくなんにも、と答えるだろう。ぼんやりと丸い瞳が何かを見つめて、表情からは何も読み取れない。人間界に紛れた少女の妖精のようだ。
ここで最も気になるのは、その思考の中に自分が含まれているのかである。彼女の体内に構成される世界には、どれだけ自分が存在しているのだろうか。これだけの時間共にいて、わずかも含まれていないことはないと思う。だがこの世には、彼女の好きなものがたくさんあった。たとえば甘いおやつ、チーズオムレツ、暖かいカーペットの上。彼女の思考をより散漫とさせる要因が、この部屋には溢れすぎている。
朝、自分が丁寧に梳った髪もまた光を弾く。産毛も金色に輝いて、やはり一枚の絵の様だった。彼女がこの世で最も、この腕で守りたいもの。それは間違いようもない事実だ。然れどその絵は、この腕の干渉外にある。
それは、俺にとって堪え難いことだった。
「ちゃん」
抑えた声で呼び掛けると、窓の外を眺めていた少女が緩慢な動作で振り返る。
虹彩が俺を捉え、アンニュイな絵の妖精は人間の少女に――俺の恋人に戻る。
いつも通りの声と、ふやけたような柔らかい表情で、なあに、と彼女は答えた。
意識の外側、無意識の中にさえ、自分が刻み込まれていればいいと思う。
意識の引き起こす波に依らずとも、彼女に自分を思い返して欲しい。
より内側に触れていたいのだ。
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